研究紹介

TRiKUCでは量子物質に対する以下の研究テーマに焦点をあてています:

(2)トポロジカル物質に関連した超伝導体の開発、

(1)ルテニウム酸化物超伝導体Sr2RuO4の非従来型超伝導状態の解明、

(3)一軸圧印加で創発する新奇物性の開拓。

そして、新物質の合成、純良単結晶の育成、一軸圧印加装置の開発、1ケルビン以下の低温までの物性測定などを駆使して、これらのテーマに取り組んでいます。また、純良単結晶の供給を通じた国際共同研究も盛んに展開しています。

(1)ルテニウム酸化物Sr2RuO4の非従来型超伝導状態

Sr2RuO4の超伝導は、銅酸化物の高温超伝導体と同じ結晶構造で、銅を含まない初めての超伝導として我々が発見しました。純良な単結晶を用いた様々な実験と先端の理論から、当初はスピン三重項カイラルp波超伝導が実現していると考えられました。ところが2019年になって、非従来型d波の超伝導である可能性が有力になりました。しかしながら、時間反転対称性の破れたカイラル状態のトポロジカル超伝導を説明するのは容易ではなく、スピン三重項で異なる電子軌道間の電子対による新奇な超伝導状態の可能性も議論されています。このような特異な超伝導状態を解明するために、TRiKUCでは、一方向の圧力印加やRu金属析出による共晶での超伝導性の劇的変化を通じて決定的な証拠をつかもうとしています。また、様々な実験に適した結晶方位や形状の純良単結晶を提供して、国際共同研究も広く展開しています。

フローティングゾーン法によるSr2RuO4単結晶の成長。光沢のある平らな面は、RuO2面に平行な基底ファセットである。原料焼結棒(上)の直径は5.5 ㎜。

育成を終了し、フィードロッド(上)と結晶(下)を切り離す。

(2)トポロジカル物質に関連した超伝導体

量子物質の代表例であるトポロジカル物質は,電子の波動関数が様々な対称性に基づくトポロジカル不変量を持つ物質です。我々のグループはこれまで、トポロジカル絶縁体にキャリアドープした超伝導体での結晶の回転対称性を破るスピン三重項トポロジカル超伝導性の発見、トポロジカル結晶絶縁体のアンチペロブスカイト酸化物を舞台にした超伝導の発見などの成果を上げました。

最近,我々が超伝導を発見したCaSb2は,非共型(non-symmorphic)の結晶対称性によって「ディラック線ノード金属」というトポロジカル状態ににあります。静水圧の印加で超伝導転移温度が上昇したのち減少するという異常なふるまいを示すので、その原因を解明する目的での研究を進めています。

(3)一軸圧印加で創発する新奇物性

最近開発されたピエゾ素子一軸圧力装置を用いると、一方向への歪で結晶の対称性を変化させることで、質的にも新しい電子状態を創り出せる可能性があります。この装置を駆使して、超伝導転移、強誘電転移、金属-絶縁体転移、トポロジカル転移など、電圧で物質の機能を制御する新しいアプローチにチャレンジしています。

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